Z章 子離れできない親たち
脱走したがる子供は、訓練でも"ハイ!ハイ!"と返事がいい
逃げたい気持ちと、何かをつかみたい気持ちの両方が、子供にはある
親は口を出すな。一度まかせたら、最後まで子供に介入するな
■手紙H――途中で逃げ出した中学3年生(男)の母親からの報告
「……その後の子供の状態はあまり良くなく、特に2か月も入れた(ヨットスクールに)ことに対しては非常に不満を持っており、恨んでおります。勉強に対しては12月に入ってから学校へ行った為に、期末試験が受けられず、オール1の評価しかもらえず、高校進学といっても1番悪い工業高校しか受ける事ができず、不良のような子ばかりが願書を出しに来たようで、受ける気もなくしてしまい、勉強する気はヨットから帰って2、3日はあったようですが、たった1週間ほどで冬休みに入ってしまい、冬休み中も何もせず、春、新学期が始まってからも、まるっきりついていけず、全く面白くなかったようで、随分お休みもしました。
もう卒業などどうでもいいと、すてばちになってしまった時もありましたが、何とかかんとか言ってやったり励ましたり、怒ってみたりで、どうにか無事卒業だけはできましたが、どこの高校へも入れず、今は夜学に行くつもりになっているようですが、ヨットヘ行って少しでも自覚を持ってくれればと思いましたが、この子には無理だったようです。
所詮、心の病はヨットでは治せるものではありません。ただ外へ出ていくことができたことだけ(注・登校拒否を続けていた子である)。それだけで、家の中では段々とえばり出してきています。
元々、友達の少ない子でしたので、友達らしい人は1人も居らず、本当に可哀そうなものです。学校へ行き始めて少しの間はよかったようですが、段々と村八分的になってしまったりと、色々悩んでいたようです……。
ヨットで本当に見違えるように良くなる子供と、家の子のように変わらない子と、色々いるのではないかと思います……。
2か月は長過ぎたように思われます。返って変な図太さが出てしまい、今ではまた元に戻ってきつつあります。それでも今までのようにまるきり1か月も2か月も家の中に居るという事は恐らくないと思いますが、日曜日などは1日中、家に居ります。とにかくヨットヘ出した時期が悪かったのだと思い、諦めております……」
この母親はすっかり落胆してしまっています。子離れできない親たちが、目に見えない糸で子供をしばっている
■手紙I――ヨットスクールに子供を送り出した母親のその後こういう手紙は、しばしば寄せられます。
「前略、先日は遠路お迎えをありがとうございました。
……入校以来、丁度1週間が経過したわけですが、どんな様子でしょうか。安じられます。昭彦(注・子供の名前、仮名)が出かけた後の部屋を片づけながら、どんな気持ちで出かけたろうか(どんなに苦しくとも頑張るんだよと心の中で昭彦と自分に言い聞かせ)、昭彦もさぞや不安と驚きで眠れぬ夜を過ごしたことと思いました。
翌日、午後1時頃、昭彦より電話が入り"家に帰りたい"との言葉を受けた時には、本当に切なくつらい思いでしたが、精一杯の明るい声で"元気?頑張るのよ!"と、何度も何度も言っておきました。そして、電話が切れてからヨットスクールの方に連絡した後、昭彦の苦しい胸の内が思われ、あふれる涙をどうすることもできませんでした……」
「……昭彦がヨットスクールを卒業して、早3か月近くなります。おかげ様で元気に明るく登校しております。4月下旬には修学旅行に参加でき、楽しい思い出ができたようでございます。実例をもう少し、挙げておきましょう。次の手紙は、ヨットスクールを脱け出し、しばらく行方がつかめなかった女の子(高校生)の父親が、娘が帰って来た後で書いてきたものです。
また、5月からは月2回ずつのテストに追われ忙しい毎日。やはり中2の時、欠席していた部分の勉強の遅れを取り戻さねばなりませんので、かなり苦しいようです。
しかし、時々わがままが出ながらも、おかげ様で何とか頑張って、テストの結果も上位を保っています。
また、父親とも口をきかなかった以前がうそのように最近では少しの時間を利用して、2人で碁を打っております。そんな姿にうれしくて感激で一杯でございます。ヨットスクールにお預かり頂いた時の気持ちを親子共々忘れることなく過ごしたいと思っております。
本人は思い出したくないと申してますが、きっと困難に出合う度に、あの時の経験が生きてくると信じています……。
ますますの御活躍を心よりお祈り致しまして筆を置きます……」
■手紙J――逃走した女子高校生の父親からの報告この父親も迷っています。
「……さて、3か月ぶりに所在が判り、4か月ぶりに帰宅した娘の件ですが(注・ヨットスクールには1か月だけ居たことになる)、帰宅時は派手な服装、ハイヒールで戻り、3か月間またかなり芳しくない体験を経たことをうかがわせるような状態で戻って来ました。スナックで働いていたとか5人の男女が共同生活をしていたとか。色々と話してはいますが、どこまで本当の話をしてくれたのかは不明です。
とにかく当初の派手さは日毎になくなり、家に落着き、両親との会話も通常の通りできるようになり、昔日の反抗的態度はすっかりなくなりました。
ただ、日毎に生活が怠慢化し、当初の緊張感を失ってきました。貴校を卒業したものではないとの感じは否めません。帰宅後2週間ほどは自由に気ままに、思いっきり両親に甘えるに任せていましたが、将来のこともあり、娘の気持ちを問いますと、学校へ行きたいと申すので、さて、具体的にどうしたものか思案しました。
貴校に戻すことが筋道であることは、小生にも十分理解できます。ただ、娘は休学中の高校には戻りたくない様子ですし、親としても娘の知的レベルに対応しない同校に戻したくない気持ちですので、再度、別の高校の入試を目覚して受験勉強をやり直すということも選択対象として考えられる状態となりました。
貴校を卒業させることが娘の心理状態や自信に必要なこととも思い、迷うところですが、貴校から逃走後3か月も経過している事実、勉強してみようという意欲も大切にしてやりたい気持(もっとも、これは貴校から逃れる方便とも解釈できますが)等々もあって、娘に勉強に挑戦するよう、機会を与えてみようと決心しました。
大変、失礼とは存じますが、寄道をさせ試行錯誤であっても一応受験をさせてみよう、失敗に終ればまた貴校にお願いをしようという甘い親の心情からの選択です……。
帰宅後、しきりに貴校の話を、しかも親しみを込めて話をしました。ヨットに乗ることがいかに楽しかったか、しかし朝のトレーニングがいかにつらいものだったか。先生やコーチの話……等々、なつかしく話してくれました。"では戻るか"と言いますと"嫌だ"との答えが返ってきます。しかし、娘の心に貴校の生活がプラスに植えつけられていることは確かなようです。
惜しむらくは、ちゃんと卒業したという満足感があったなら、人生にもっと有益だったろうと思います。その点、誠に残念なことですが、将来ともに卒業の機会のあることを願っています(それが心理的なものであってもよいと思いますが)……」