原因は本能の低下

 「酒鬼薔薇事件は、特殊な子供が起こした特殊な事件」と誰しも考えたいでしょう。
しかし、そうではありません。  

登校拒否、非行、いじめっこ(いじめられる子も)、暴走族、援助交際、シンナー、
自殺・自殺志向、盗み、ヤンキー座り、茶髪にピアス…。

我々のまわりにいくらでもいて、今や当たり前になってしまった若者たちと、
酒鬼薔薇君にはある共通点があるからです。  

それは、本能の低下(=基礎精神力の不足)です。

そして、これこそが今回の事件の根本原因です。
酒鬼薔薇の予備軍たち  戸塚ヨットスクールがこれまで扱って来た子供の中にも、
ああいうタイプの子はたくさんいました。
一例をお知らせしましょう。

少年A(当時中3)  
ほんの少しの努力を要求されたり、あるいは自分に都合の悪いことがあると
事件を起こす子。自分のお祖母さんを殺そうとするなど、何度も殺人未遂をやり、
戸塚ヨットスクールにやってきました。

来てすぐにいろいろな事件を起こしました。   
自分はこんな所(合宿所)に居たくない→警察沙汰になるような事件が起きれば
出られる という理屈で放火と殺人未遂(他の訓練生の首を締める)に及んだのです。 そして、「僕は14歳だから人を殺しても罪にならない」とうそぶいていました。

少年B(19歳)  
父親を殺して保険金1億円を手に入れようとした子。
大学ノート2冊にその計画がびっしり書き込まれていた
(相手が奥の部屋に逃げたらこう、2階へ逃げたらこう、もし警察に見つかったら
こうして言い訳する、という具合で、本人としては大まじめで綿密な計画のつもり)。
が、実行は失敗。警察・裁判沙汰になりました。

しかし、公判ではスカッと明るい笑顔できっぱり否定。
裁判所は彼の言葉を信じてしまいました。
驚いた両親は裁判官を訴えましたが、とりあってもらえませんでした…。

少年C(25歳)  
実力はないくせに名誉欲が強く、弱い者の上に立とうとする子(?)。  
弱い子をいじめてみたり、逆に、やけに弱い子の面倒をみたり、弱い子ばかりを
集めて説教したりします。
当然、同年代の子供からは総スカンを食らい、女の子にも嫌われます。

このタイプの子が、最近増えています。

少年D(小6)  
成績は中の上だが、精神的には弱い子。
自分の精神的弱さを克服しようと、肉体的な強さにあこがれるタイプです。  
行動力のある子の場合、武道を習ったりします。
そこでちゃんとやれば精神的に強くなるきっかけになるのですが、いい加減に
しかやりません。そして、生半可で危険な技を弱い子相手に仕掛けたりします。

また、「武器」が好きです(包丁、金属バット、ヌンチャク(特に多い)、ナイフ、
ボウガン、パチンコなど)。  

行動しないタイプの子の場合は、プロレスを見たり、格闘技ゲームに夢中に
なったりします。酒鬼薔薇君は、こういう子供たちの延長線上にいるのです。


間違った理性と弱い本能  
人間は、持って生まれた本能(ハードウエア=「あるもの」)と、
生まれてからのしつけや教育によって造り上げられる理性(ソフトウエア=「つくるもの」)
とで出来ています。

一般に、本能は野蛮で低級なもの、理性は気高く高級なもの、と見なされます。
しかし、事実はまったく逆で、人間がたかだか十数年でこしらえた理性などより、
大自然の中で数十億年かけて磨かれた知恵である本能のほうが正しいのです。  
「人間が人間を守ろうとする無意識の衝動」これは人間ならば
誰でも生まれながらに持っている本能です。

この本能が正常に働いてさえいれば、(強い恐怖などの不快感がブレーキとなって)
人は殺せないものです。

ところが、この本能が弱くなっていると、ちょっとした理由で、
あるいはこれといった理由もなしに、人が殺せてしまいます。  

酒鬼薔薇君は、人間性の土台である本能(ハードウエア)が
「普通の現代っ子と同じように」弱くなっていて、その上に、
間違った理性(ソフトウエア)が築かれたために、あのような事件を起こした
と考えられます。  

マスコミがいう所の「ホラービデオの真似をした」、「ひどく叱られたことへの復讐」、
「体罰で性格が曲がった…」、という議論は、現象を良く説明していますし、
受け入れやすく、正解でもあります。

しかし、土台となる本能の低下を無視しているので、それは偶然の正解でしかなく、
従って、彼らに酒鬼薔薇君を直すことはできません。


間違った理性が自然に消えることはない
酒鬼薔薇君を少年院に送ってもすぐに出てきてしまうから、
もっと長く入れるように少年法を改正すべきだとか、
少年法の適用年齢を下げて懲役刑を課せられるようにすべきだとか、
議論されています。

しかし、一番大切なのは「どうしたら彼を正常化できるか」、
ということではないでしょうか。
彼を正常に戻す方法があれば、そのエッセンスを教育の中に組み込んで、
同じような事件を引き起こす可能性を、未然に防ぐことができるようになるわけです。
さて、今、問題なのは、酒鬼薔薇君の間違った理性と弱い本能を
どう矯正するかということですが、間違った理性の側から手をつけるのは
容易ではありません。

なぜなら人間のソフトウエア(=理性、技術、習慣、クセ)は、
一度出来上がってしまうと、自然に消えることはないからです。

子供の頃、自転車に乗る技術(ソフトウエア)を身につけると20年経っても
乗ることができます。
同じように、間違った理性、悪い癖に染まると、それがいつまでも残ってしまいます。
カウンセラーがいうように「ほうっておいて」も無くなることは決してないのです。
この間違ったソフトウエアを消すには、より強く、大きく、正しいソフトウエアで
悪いソフトウエアを抑え込んでしまうしか手がありません。
しかし、それには大変な手間と時間がかかります。

まして、酒鬼薔薇君のようなケースは、非常に難しいものがあります。
沢山の問題児を扱った経験のある我々のような所でなければできませんし、
それでも大変です。

本能を強くして悪い理性を抑える  
比較的簡単で、現実的で、効果の大きな方法がひとつだけあります。
それは、弱くなった本能を強くし、
本能(ハードウエア)の側から悪い理性(ソフトウエア)を抑え込んで行く方法です。
我々のいう「脳幹トレーニング」です。  
このトレーニングを続ければ、酒鬼薔薇君は変わってきます。
徐々に、後悔し、反省し、そして心から謝罪することができるようになるでしょう。
彼の脳幹の機能が本来の能力まで回復すると、本能が正常に働きだし、
「罪の意識」という感情を造出させるようになるからです。  
私たちが、十数年間ずっと訴え続けているのは、
この本能を強くするメカニズムが今の教育に欠けており、それが教育荒廃を
引き起こしているのだ、ということなのです。

                        戸塚ヨットスクール校長   戸塚 宏

本当の人権と法の前の平等を守れ!  
今回の事件は、教育荒廃の真の原因が本能の狂いによる文明病であることを
最も無惨な形で露呈させました。
と同時に、日本の社会に本当の人権意識が根付いていないことも露呈させました。  
司法当局は、容疑者の少年の顔写真を「フォーカス」が掲載したのは
人権侵害であるといい、自分たちが法の番人であるかのような顔をしています。  
けれども、少年の人権を本当に尊重したいのなら、まず取り調べに弁護士を
立ち会わせるべきです。

こんな基本的な権利さえ守ろうとしない日本の司法に
人権を云々する資格などありません。  

そもそも、検察官が、脅し、すかし、誘導によって、自分たちに都合の良い調書を
密室で作り上げ、裁判所がそれを証拠として採用する、などという暗黒裁判が
平気で行われているのは、先進国(?)では日本だけです。

そういうことに何の疑問も示さないマスコミや国民がいるのも、やはり日本だけです。  

取り調べに弁護士を同席させ、さらにビデオでその状況を記録するのが、
法治国家における人権尊重の第一歩でなければなりません。  
顔写真や氏名といえば、第一勧銀と野村証券の総会屋を仲介したという大物
(元出版社経営)の名前や顔写真を、マスコミはなぜ公表しないのでしょう。

少年ではないはずです。

少なくとも、匿名にしてこの大物の「人権」を守ることが、国民の「知る権利」に勝る
ものである理由を明らかにすべきです。  

また、公務員が事件を起こしても、ほとんどの場合、氏名や写真が公表されません。
これもおかしなことです。  
特に、悪いことをしたのが警察官や裁判官の場合は、相当あくどいことをやっても
写真が公表されませんし、起訴猶予や不起訴処分になってしまいます。
もし起訴されたとしても、判決の段階で「反省し、すでに社会的制裁を受けている」とか
何とかいって執行猶予です。まして、検察官となると…。

検察官だって人間ですから、ノイローゼで万引きしたり、出来心で痴漢をしたり、
公金横領などの不祥事を起こす人がいるはずですが、そういう話は全く聞きません。
どこかでもみ消し工作が行われているに違いないのです。  
こういうことこそが差別であり、人権無視であり、
法の前の平等を踏みにじるものだと思います。

コーチ 東 秀一

 
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